ブランド戦略の事例を知る
オリオンビールが描く「沖縄とともにある」未来
2026/03/23
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- ▼目次
- -沖縄の日常に寄り添ってきたブランド
- -「沖縄であること」がオリオンの最大の強み
- -1万5000人の県民とともに考えた商品開発
- -「飲んで、笑って、またあした。」に込めた思い
- -Tシャツは「沖縄を着る」アイテム
- -沖縄の未来とともに歩むブランドへ

沖縄の日常に寄り添ってきたブランド
沖縄の風景のなかに、自然と溶け込んでいる存在がある。
夏の夕暮れ、家族や仲間と囲む食卓。地域の祭りや行事のあとに交わされる乾杯。特別な日だけでなく、何気ない日常のひとときにも寄り添ってきたのが、オリオンビールだ。
1957年の創業以来、沖縄で生まれ、沖縄とともに歩んできた。観光客にとっては“沖縄らしさ”を感じるブランドであり、県民にとっては暮らしの延長線上にある存在。その両方を担ってきた企業でもある。市場環境が変化するなかで、同社はあらためてその意義を問い直しているという。
「沖縄とともにあるブランド」とは、どのような存在なのか。地域に根ざしながら、沖縄の魅力をどのように未来へつないでいくのか。その戦略について、オリオンビール株式会社 執行役員マーケティング本部長の湖東彰彦さんに話を聞いた。
湖東さんは、外資系企業やIT企業で約20年にわたりマーケティングに携わってきた経験を持つ。MHD Diageo Moët HennessyやJohnson & Johnsonなどで日本・米国・シンガポールを拠点に消費財マーケティングに従事し、AmazonジャパンではAmazon FreshやPrime Nowの事業部長を歴任。2023年にオリオンビールへ参画した。現在は執行役員マーケティング本部長として、商品の開発やプロモーション、販売戦略など、ブランド全体の方向性を統括している。

「沖縄であること」がオリオンの最大の強み
オリオンビールの事業は、ビールやチューハイなどの酒類清涼飲料の製造・販売だけにとどまらない。沖縄本島北部・本部町のリゾートホテル運営など、観光不動産分野にも事業を展開しているほか、グループ会社では泡盛や健康飲料の製造販売も行っている。こうした多様な事業の根底にあるのが、「沖縄の価値を体現するブランドでありたい」という考え方だ。
日本のビール市場は、大手4社が9割以上のシェアを占めると言われている。その中でオリオンビールは決して大きな企業ではない。だからこそ、湖東さんは次のように語る。
「大手と同じことをしても勝てません。私たちが生き残っていくための唯一の独自性は、“沖縄であること”だと思っています」
沖縄の自然、人の温かさ、ゆったりと流れる時間。そうしたこの土地ならではの価値を、商品やサービスの中にどう表現していくか。オリオンビールでは、すべてのブランド活動を通してその問いと向き合っている。

1万5000人の県民とともに考えた商品開発
その象徴的な取組の一つが、主力商品「オリオン ザ・ドラフト」の商品開発だ。開発にあたって掲げたのは、「沖縄の人が一番おいしいと思うビールをつくる」というシンプルな目標だった。
研究開発チームは、県民によるブラインドテストを実施。他社製品と並べて銘柄を隠した状態で味を評価してもらい、沖縄の人たちが「これが一番おいしい」と感じる味わいを追求した。その過程で、製品テストや調査、ワークショップなどに参加した県民は、延べ約1万5000人にのぼる。
パッケージデザインの開発段階では、社員やデザイン会社だけでなく、一般の生活者も参加するワークショップを開催。沖縄の人たちが愛着を持てるブランドとはどのようなものか、意見を交わしながら形にしていったという。こうして、県民の声を取り入れながら生まれたのが、現在の「オリオン ザ・ドラフト」である。

「飲んで、笑って、またあした。」に込めた思い
ブランドの魅力は、商品そのものだけではない。オリオンビールでは、コミュニケーションのあり方についても沖縄らしさを模索してきた。その一つが、「飲んで、笑って、またあした。」というキャンペーンだ。
企画にあたり、マーケティングチームは沖縄県民へのデプスインタビューを実施。生活や将来への思い、故郷への感情などを丁寧に聞き取り、沖縄の人たちの心の奥にある思いを探った。
そこで見えてきたのは、沖縄への強い愛着と、変わりゆく社会への複雑な気持ちだったという。友人が県外へ旅立つこと、街の風景が少しずつ変わっていくこと、そうした変化の中でも、久しぶりに仲間と集まれば、そこには変わらない時間がある。
「私たちは、そういう瞬間に寄り添うブランドでありたいと思っています」
派手な成功や特別な出来事ではなく、仲間と笑い合う何気ない時間を肯定する。その思いが、「飲んで、笑って、またあした。」というメッセージに込められている。
Tシャツは「沖縄を着る」アイテム
街中で見かけるオリオンビールTシャツも、ブランドの広がりを象徴する存在だ。お土産として人気がある一方、県民が日常的に身につけている姿もよく見かけるようになった。「世界のビールブランドでも、ここまでTシャツが街に広がっているブランドは珍しいと思います」と湖東さんは語る。
オリオンTシャツは、単なる企業グッズというよりも、「沖縄を感じるアイテム」として受け止められている側面があるという。「オリオンビールのTシャツというより、“沖縄を着るTシャツ”なんだと思います」。街の中でブランドを見かけること自体が、生活者にとっての視覚的な接点になる。そうした積み重ねが、ブランドへの親しみを育てていく。

沖縄の未来とともに歩むブランドへ
昨年(令和7年)、オリオンビールは株式上場という大きな節目を迎えた。湖東さんは、「マーケティングの考え方は上場前も後も変わらない」と話す。大切なのは、顧客にどんな価値を届けるかを考え続けること。その姿勢こそがブランドを支えるという。
今後の目標として湖東さんが挙げるのは、「沖縄の人にとって一番身近なビールであり続けること」だ。現在、家庭で飲まれるビールには県外ブランドも多い。一方で、ブラインドテストではオリオン ザ・ドラフトが最も高く評価されることも多いという。
「沖縄の人が一番おいしいと思うビールがオリオンだと、自信を持って言ってもらえるようになりたい」
さらに湖東さんは、企業として沖縄の未来にどう関わっていくかについて「沖縄が抱えるさまざまな課題を、オリオンビール一社だけで解決することはできません。でも、企業や地域の人たちがそれぞれの立場で力を持ち寄れば、少しずつ変化を生み出していけると思っています」と語る。
その中でオリオンビールが担える役割の一つは、ブランドや商品・サービスを通して沖縄の魅力を伝えていくことだ。沖縄の価値に触れた人が、この土地を訪れ、沖縄を好きになる。そして何より、沖縄県民自身が、自分たちの土地や文化に誇りを持てるような存在でありたい。
観光客にとっては沖縄の象徴であり、県民にとっては日常の一部。その両方を大切にしながら、オリオンビールはこれからも沖縄の時間とともに歩み続けていく。
夏の夕暮れ、仕事終わりの一杯、久しぶりに集まった友人との乾杯。その何気ない時間の積み重ねが、沖縄という土地の魅力を形づくっているのかもしれない。
オリオンビール株式会社
オリオン美らSUNオフィス 〒901-0225 沖縄県豊見城市字豊崎1番地411(トミトン内)
WEB https://www.orionbeer.co.jp/