ブランド戦略の事例を知る
沖縄の暮らしの文化を編み直し、伝える
2026/03/13
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日常を彩る琉球菓子とお茶の時間
八重瀬町東風平にある「koti(こち)」は築65年を超える古民家をリノベーションした琉球菓子とお茶のお店だ。扉を開けると、天井が高くゆったりした空間が広がっている。お菓子を作る湯気が立つ厨房、レトロモダンな雰囲気の雑貨たちが並ぶ店内。庭に植えられた緑が、窓越しにきらきらした光とともにふりそそぐ。

「koti」という店名は、地名の東風平(こちんだ)と、春の訪れを告げる風を表す「東風(こち)」から名付けられた。ここでいただけるのは、黒糖アガラサー(黒糖を使った蒸しパン)やチンスコウ、沖縄風卵カステラのチールンコウ(鶏卵餻)、花ぼうる(花模様の切込みを入れた焼き菓子)などの琉球菓子。
これらのお菓子のレシピは琉球料理伝承人の津嘉山恵子さんがプロデュースしており、伝統的製法にこだわりつつ、現代風のアレンジも加えて作られている。例えばちんすこうは昔ながらのラードを使いつつ、沖縄県産の緑茶、紅茶、紅芋、シークヮーサーなど様々な味わいが楽しめるようになっている。さんぴん茶や、沖縄県産の緑茶や紅茶も用意されており、琉球菓子と一緒に楽しむことができる。

店長の新垣春香さんは、「琉球菓子と一口に言っても、琉球王国時代に王家で接待や祭事などに用いられた王朝菓子と、庶民の間で親しまれた郷土菓子があり、種類や味わいもさまざま。私たちはお店を通して、沖縄が育んできた暮らしの文化を伝えていきたいと思っています。お茶の時間だけでなく、沖縄の工芸品、雑貨の販売や、琉球料理や芸能など暮らしの文化を体験できるワークショップ開催もそのひとつです。沖縄の良さを伝えつつ、地域で愛されるお店、お客様が気軽にくつろいでいただけるお店になれれば」と笑顔を見せる。穏やかな空気に満たされた店内でのんびりお茶を飲む。時間がゆっくり流れていく。


はじまりは沖縄を愛し、大切に想う心から
「koti」は、沖縄の価値を創造する文化編集カンパニー「ゆいまーる沖縄」の店舗の1つである。「ゆいまーる沖縄」は1988年創業で、沖縄の工芸品を中心とした商品の企画・流通を行い、プロジェクトデザインを通して、沖縄の文化的価値の創造・発信を手掛ける。取引先は県内の工芸工房、食品メーカーなど約300社にものぼり、直営店舗とオンラインショップ以外にも県内外200カ所以上へ流通させ、沖縄のものづくりを広く届けている。また、工芸業界が抱える後継者不足や収益性の低さなどの課題に対し、共創型の企画や販売支援を通じて持続可能な産業づくりにも取り組んでいる。
代表取締役社長の鈴木修司さんは、経営の根本は「沖縄のためにできること」を問い続けることだと言う。
「当社は先代の玉城幹男が『琉球を自立させたい』という想いで創業しました。玉城が集団就職で内地に上京した際は、沖縄出身だというだけでアパートを借りられないなどの差別があったそうです。沖縄が置かれた状況やアイデンティティを考えるうち、玉城は沖縄の自立を志すようになりました。私たちは、先代の想いに寄り添い、沖縄に根を下ろし、沖縄に向き合う企業として活動してきました」
沖縄の風土や文化に敬意を払い、沖縄が持つ価値観を大切に活動する。「ゆいまーる沖縄」は単なる流通業ではない。ひとつの商品をとっても、ものが持つ価値、育まれてきた風土や歴史の価値を再発見し、そのストーリーをきちんと伝えることで、常に沖縄に寄り添い続けてきた。

「koti」が生まれた理由
「koti」は「ゆいまーる沖縄」の価値観そのもののような場所だ。学校や住宅が建ち並ぶ、ごくありふれた街中に佇む古民家。沖縄の植物が周りを取り囲み、強い陽射しでも涼やかな風が吹く。素敵なカフェで過ごすティータイムは、実は沖縄に昔からある「十時茶」「三時茶」といった休憩の習慣と何も変わらない。ただ、少しだけモダンになった。
鈴木さんは、「koti」誕生の背景には二人の人物との出会いがあったと言う。
「古民家の大家さんと琉球料理伝承人の津嘉山恵子さんです。今『koti』になっている古民家は建物を取り壊し賃貸物件にする案もあったそうですが、建物を活用したいという大家さんの想いを受けて私たちが活用させていただくことになりました。そして津嘉山さんとの出会いを通じて、かつては100種類以上もあった琉球菓子がほとんど残っていない現状を知り、消えゆく文化を残したいと強く思うようになりました」
「koti」は古民家という空間を生かし、五感で文化を伝える役目を持つ。
「これからの時代は地域に根ざした文化の価値が更に増していくと思います。お店に来て、沖縄の器で琉球菓子やお茶を飲む。沖縄の暮らしを伝えるワークショップに参加する。そうすると『koti』の物語性に触れつつ、空間・味・体験を通して、沖縄の文化を身体で理解できる。昔から続く沖縄の文化エッセンスを現代の暮らしに合う形へ再デザインしているんです」
鈴木さんは昔のままではなく、時代に寄り添って再編集をすることで、持続可能な形で継承できる仕組みづくりを目指している。

文化と経済が共に育む未来
時代に寄り添いつつ、ものを売ることを通して背景にある沖縄の文化や精神性を伝える「ゆいまーる沖縄」の事業は今後どう変化していくのか。キーワードは「文化と経済が共に育む未来」。鈴木さんは「ゆいまーる沖縄は、沖縄文化を未来へつなぐ、共創型の文化編集カンパニーへと進化していきます」と話す。
「私は沖縄の根っこにある、自然や祖先を崇める心を発信してゆきたいと願っています。経済至上主義で現代の人々が見失ってきたものが沖縄には残っていると思うからです。沖縄の自然、祈り、工芸、食、暮らし。これらの文化資本を編集し、生産者・クリエイター・地域・生活者と共に新しい価値を生み出していく。その共創プロセスこそが、沖縄の持つ魅力と強さの最大の発信になると考えています」
「ゆいまーる沖縄」では、これからも文化を起点とした商品企画や店舗づくり、体験プログラム、流通などを通じて、「文化と経済が共に育む未来」を創っていく。
ゆいまーる沖縄 株式会社
本社住所 〒901-1104 沖縄県島尻郡南風原町宮平652
琉球菓子とお茶 koti
本社住所 〒901-0401 沖縄県島尻郡八重瀬町東風平352-1