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琉球ガラスに宿る、沖縄の光と物語
2026/03/24
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- ▼目次
- -個人工房の力を結集し、琉球ガラス文化を守る拠点として誕生
- -父の代から受け継いできたモノづくりと経営のバトン
- -ハンドメイドの限界を越えるために生まれた海外工場
- -技術を未来へつなぐための職人育成という大きな挑戦
- -新たな体験施設「琉球コクーン」が生み出す感動
- -未来へと受け継がれていく、琉球ガラスの輝き

個人工房の力を結集し、琉球ガラス文化を守る拠点として誕生
沖縄の海や空を思わせる、鮮やかな色彩。光を受けてきらめく透明感。
グラスを手に取ると、そこには沖縄の風景が閉じ込められているかのようだ。
琉球ガラスには、人の心を惹きつける不思議な力がある。糸満市にある琉球ガラス村は、その魅力を発信し続けている拠点である。
工房では職人たちが炎と向き合いながらガラスを吹き上げ、ショップには多彩な作品が並ぶ。訪れる人々は、その光景を通して沖縄のものづくり文化に触れることができる。ここは単なる観光施設ではない。琉球ガラスという文化を守り、未来へとつないでいく場所でもある。
琉球ガラス村の歴史は1985年にさかのぼる。当時、沖縄にはいくつもの個人工房が存在していた。ガラス製造は石油を燃やし続ける必要があり、コストの高い産業であった。個々の工房だけでは経営が厳しい状況も多く、職人たちは新たな道を模索していた。
そこで6つの個人工房が集まり、共同で窯をつくる形で誕生したのが「琉球ガラス製造協同組合」である。さらに観光客を受け入れる「見せる工場」という発想を取り入れ、製造・販売・観光を組み合わせた取組をスタートさせた。現在でいう6次産業化の先駆けともいえる試みであった。2016年には株式会社化し、現在の体制へと移行。ものづくりと観光を融合させた拠点として歩みを続けている。

父の代から受け継いできたモノづくりと経営のバトン
代表取締役社長の稲嶺佳乃さんにとって、琉球ガラスは幼い頃から身近な存在だった。父がガラス工房を経営していたこともあり、工房で働く職人たちの姿を見ながら育ったという。炎の前でガラスを吹き上げる職人の姿は、子どもの頃の記憶として強く印象に残っている。
その後、家業を継ぐ形で経営に関わるようになり、代表取締役社長に就任した。「創業者からよく言われるのは、『あなたは沖縄の財産を扱っているんだよ』という言葉です」
琉球ガラスは単なる商品ではなく、沖縄の文化そのものでもある。その言葉は、今も経営の原点として胸に刻まれているという。
琉球ガラスの魅力は、豊かな色彩と手仕事ならではの表情にある。青い海や空を思わせる色合い。光を透かす透明感。そして手作業によって生まれる気泡やゆらぎ。そうした要素が重なり合うことで、一つひとつ異なる表情の作品が生まれる。
「ガラスは色をとても美しく表現できる素材ですし、光や透明感も大きな魅力です。見ているだけで元気をもらえるようなエネルギーがあると思います」。繊細でありながら、どこか力強い。その対照的な魅力も、琉球ガラスが人を惹きつける理由の一つだ。

ハンドメイドの限界を越えるために生まれた海外工場
琉球ガラスの多くは職人の手仕事によって生み出される。そこにこそ魅力がある一方で、大量生産が難しいという課題も抱えていた。観光客の増加に伴い、「沖縄の思い出としてガラスを持ち帰りたい」という声は年々増えていった。しかし、すべてを手作業で作る以上、生産量には限界がある。多くの人に届けたいという思いと、製造の現実との間で葛藤が生まれていた。その課題を解決するために誕生したのが、ベトナムの製造拠点である。
ベトナムを選んだ理由の一つは、手工芸文化の土壌があったことだ。漆や陶器などの伝統工芸があり、手仕事に長けた文化が根付いている。また、沖縄と同じアジアの文化圏であることも大きかったという。
「たくさんの人にガラスを届けることと、沖縄で技術を守ること。その両方を実現するための選択でした」。海外で量産品を担いながら、沖縄では高度な技術を育てていく。こうした二つの拠点によるものづくりの仕組みが、現在の琉球ガラス産業を支えている。

技術を未来へつなぐための職人育成という大きな挑戦
現在、琉球ガラス村には現代の名工が3名、工芸士が10名在籍している。これは沖縄県内でも最大規模の体制であり、全国的にも珍しい人数だという。しかし、技術を継承することは決して容易ではない。
「職人の育成ほど難しいものはないと感じています」。職人にはそれぞれ強い個性やこだわりがある。自分の技術に誇りを持つからこそ、時には衝突も生まれる。だからこそ大切なのは、外の世界を知り、刺激を受ける機会をつくることだという。
「世の中にはもっとすごい技術や作品があると知ることで、職人の中のスイッチが入ることもあります」。技術を磨き続ける環境を整えること。それもまた、経営の大きな役割なのだ。

新たな体験施設「琉球コクーン」が生み出す感動
近年、琉球ガラス村では新しい挑戦を続けている。その一つが体験型施設「琉球コクーン」である。光や映像を使った空間演出の中で、琉球ガラスの美しさを体感できる施設として注目を集めている。このアイデアのきっかけは、コロナ禍の時期だった。観光客が減少し、経営環境が厳しくなる中で、「何か新しいことを生み出さなければならない」という思いが強くなったという。
アメリカで見た体験型施設からヒントを得て、ガラスの新しい魅せ方を模索する中で生まれたのがこの施設だった。「今までのやり方だけでは、お客様に感動を届けることはできない。そう思ったことが、新しい挑戦につながりました」


未来へと受け継がれていく、琉球ガラスの輝き
稲嶺さんが目指しているのは、単にガラスを販売することではない。琉球ガラスをきっかけに、沖縄そのものの魅力を知ってもらうことである。
「ガラスが好きになった方は、やがて沖縄の工芸や文化にも興味を持ってくださることが多いんです」。琉球ガラスを手に取ることが、沖縄という土地への関心につながる。そんな広がりを生み出していきたいと考えているという。
そしてもう一つ大切にしているのが、人の温かさである。スタッフの声かけや接客を通して、沖縄らしいおもてなしを感じてもらう。その体験もまた、沖縄のファンを増やしていく大切な要素だと考えている。
食品と違い、工芸品は使い続けることで価値が深まっていく。お気に入りのグラスを手にするたびに、沖縄で過ごした時間を思い出す。そんな存在であり続けることが、琉球ガラスの魅力でもある。
「長く使ってもらえるものだからこそ、沖縄を身近に感じてもらえると思います」。沖縄の自然を思わせる色彩。職人の手仕事によって生まれる唯一無二の表情。そして、それを支える人々の想い。琉球ガラスには、単なる工芸品を超えた物語がある。
個人工房が力を合わせて生まれたこの場所は、今もなお、沖縄のものづくり文化を未来へとつないでいる。職人の技術を守りながら、新しい体験や価値を生み出し続ける挑戦もまた、その歩みの一部だ。琉球ガラスを通して沖縄の魅力を伝え、文化を未来へとつないでいく。
その輝きはこれからも、多くの人の暮らしの中で、静かに光り続けていくだろう。
RGC株式会社(琉球ガラス村)
住所 〒901-0345 沖縄県糸満市字福地169番地
WEB https://www.ryukyu-glass.co.jp/