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一般社団法人琉球伝統芸能デザイン研究室×「琉球料理 美榮」 ~交易で栄えた琉球王国は「MICE先進国」だった~

2025/03/06

琉球王国時代のような少人数・小空間で伝統芸能を上演する一般社団法人琉球伝統芸能デザイン研究室と琉球王国時代の流れを汲む伝統的な琉球料理を継承する「琉球料理美榮」がコラボレーションし、特別で上質な沖縄ならではのホンモノ体験を提供。
「おきなわブランド」が目指す価値提供をどのように実現させ、何を得たのか。
今回は、伝統と革新を追究し続ける一般社団法人琉球伝統芸能デザイン研究室の事務局長平賀和明様にお話しを伺いました。

一般社団法人琉球伝統芸能デザイン研究室
事務局長 平賀和明 様

産業間連携のPOINT

連携している産業 伝統芸能 X 食
きっかけ 「琉球王国時代から連綿と続く伝統的な『琉球料理』と『泡盛』そして『芸能』」が日本文化遺産として認定され、その日本文化遺産を楽しめる機会を提供したいと着想
大変だったこと 特になし(産業間連携を図る上で歩幅が異なることは当たり前だと認識)
メリット 多様なお客様のニーズに応じたバリエーション豊かなプログラムが提供可能
効果 公演回数や来場者数の増加によって認知度の向上及び売上増加

一般社団法人琉球伝統芸能デザイン研究室について教えてください。

(平賀)私たち一般社団法人琉球伝統芸能デザイン研究室は、かつて琉球王国がアジア諸外国と交易を活性化するための国家プロジェクトとして位置付けていた「宮廷芸能」に焦点を当て、琉球伝統芸能の原点である少人数・小空間での上演を現代向けにイノベーションし、特別で上質な「国王・国賓」体験をお客様にご提供しています。
(平賀)琉球王国は、高貴な「うとぅいむち」(おもてなし)で諸外国を歓迎することによって平和的に国を繁栄させてきた歴史があり、今風に言えば「MICE先進国」だったと思います。そこで琉球王国時代のおもてなしを改めて学ぶことによって、現代でも表現できる何かがあるのではないかと考えながら日々の取り組みを行っています。

どのような背景で一般社団法人琉球伝統芸能デザイン研究室が立ち上がったのでしょうか。

(平賀)一般社団法人琉球伝統芸能デザイン研究室の代表理事を務める山内昌也氏は沖縄県立芸術大学で学部長(教授)を務めています。沖縄県立芸術大学で琉球古典音楽を学ぶ学生の半数以上が女子学生ですが、女子学生の多くは卒業後、大学で学んだ専門をいかした仕事が限られ、琉球古典音楽が披露できるにも関わらず、民謡やポップス もしくは音楽とは関係ない事務系の仕事に就かざるを得ない等の課題がありました。 琉球王国時代から連綿と続く大切な文化・芸術を次世代に繋げていくため、少人数・小空間を基とした上質な琉球伝統芸能を提供する事業と人材育成を行うべく2019年に「一般社団法人琉球伝統芸能デザイン研究室」を立ち上げました。

具体的にはどのような体験を提供されているのでしょうか。

(平賀)約10年前に一般社団法人琉球伝統芸能デザイン研究室代表の山内昌也氏と演者会員の西村綾織氏が、それまで沖縄では誰も取り組んでいなかった琉球古典音楽1名×琉球古典舞踊1名によるパフォーマンスを東京で始めたところ、毎回満席になる好評をいただいたのがきっかけです。私たちは琉球伝統芸能を少人数・小空間で上演し、大きな劇場では味わうことができない特別なホンモノ体験をご提供しています。こうした取り組みは、無形の伝統芸能として全国で初めてグッドデザイン賞(2020年度)を受賞しました。

これまでに内閣府迎賓館主催の「琉球古典音楽 及び 琉球舞踊鑑賞会」への出演や、ホテルひらまつ宜野座様のラウンジにおける定期的な「琉球古典音楽鑑賞会」の実施、また社会貢献公演として世界文化遺産「識名園・玉陵」での鑑賞会などを行っています。また、沖縄県が公募した「首里城破損瓦等利活用アイディア」に「Una-」プロジェクトが採択され、首里城の火災によって破損した瓦を用いたコンクリートパネルで演奏空間をつくり、琉球古典音楽を演奏しました。現在、これらの公演を年間約120回以上 実施しています。

今回取材させていただいた「琉球料理美榮」とは、どのようにコラボレーションが始まったのでしょうか。

(平賀)2019年に沖縄県から初めて「琉球王国時代から連綿と続く伝統的な『琉球料理』と『泡盛』そして『芸能』」が日本文化遺産として認定されました。琉球伝統芸能を鑑賞いただくお客様からは「料理もセットにして欲しい」とのお声も伺っており、琉球伝統芸能と琉球料理と泡盛をセットで楽しむ機会をご提供したいと考え、沖縄を代表する伝統的なお店である「琉球料理美榮」とコラボレーションした「日本遺産パッケージ」をスタートしました。

「琉球料理美榮」とのコラボレーションで提供している「日本遺産パッケージ」の内容を教えてください。

(平賀)「日本遺産パッケージ」に参加いただく人数は2~12名と少人数に限定し、「琉球料理美榮」を貸切にしたプライベート空間でご提供します。基本的なメニューとしては、二階の特別な空間で琉球伝統芸能を間近で鑑賞していただき、その後一階にて「琉球料理美榮」の素晴らしい料理を味わっていただく流れとなります。

(平賀)このパッケージは、主催公演だけでなく受託公演としても展開しており、これまで最もご利用頂いているのがDFS沖縄様です。DFS沖縄様では年間利用金額に応じた会員システムがあり、そのうちの上得意様であるダイヤモンド会員(当時)向けに「日本遺産パッケージ」を提供させて頂いてきました。コロナ禍で海外旅行が憚れた時に、それまでハワイやグアムでお買い物をされていた顧客様も含め「沖縄に来てください」とご案内され、琉球伝統芸能デザイン研究室と「琉球料理美榮」が提供する特別なサービスを体験していただきました。このパッケージを体験した後は
DFS沖縄様で買い物をして帰られただけでなく、富裕層の沖縄リピーターにも繋がり、芸能をきっかけに沖縄へ経済効果をもたらす良いモデルだと捉えています。

他にも産業間で連携した取り組みはありますか。

(平賀)私たち一般社団法人琉球伝統芸能デザイン研究室は、琉球びんがた普及伝承コンソーシアムと一般社団法人琉球料理保存協会の3組織で包括連携協定を結び、産業間で連携を図っています。当初は踊りの演者が「びんがた衣装」を着て公演することから、接点が多い琉球びんがた普及伝承コンソーシアムと何か一緒に取り組もうとしたことがきっかけとなり、2つの組織で包括連携協定を結びました。その後更なる発展を目指し、一般社団法人琉球料理保存協会も含めた包括連携協定に至りました。お客様にとって業界自体はあまり関係がないため、どのような形であればお客様に喜んでもらえるかを起点に私たちができることを模索した結果、こうしたスキームでサービスが提供できると考えました。

(平賀)包括連携協定による初めて取り組みは「琉球の美―首里城を感じる“ホンモノのモノ”―」でした。この取り組みでは琉球伝統芸能の上演に加えて、びんがたと琉球料理について各専門家による解説等も取り入れ、お客様が各業界の本物に触れることができるプログラムをつくりご提供しました。

産業間連携によるメリットについて教えてください。

(平賀)私たちは、特定の施設を所有しておらず、ホテル等に出向く形で上演をさせて頂いています。現在年間約120回以上もの公演が実施できているのは、産業間で連携することにより、様々な宿泊施設などでの実施が可能となることも含め多様なお客様のニーズに応じたバリエーション豊かなプログラムが実現できるからです。芸能業界単独では実施できないプログラムを、産業間の連携によってバリエーション豊富に揃えることで、公演回数や来場者数の増加といった効果に結びついていると思います。

産業間連携を図る上で大変だったことはありますか。

(平賀)大変だったことはそこまでありません。一般的に産業間が連携を図るとなかなか歩幅が合わないといった課題が想定されるかもしれませんが、私たちは歩幅が異なることは当たり前だと考えています。歩幅が合わないことに焦点を当てるのではなく、「お客様に喜んでもらうためには何をすればよいのか?」を共に模索することができれば、業界同士の争いは起こらないのではないでしょうか。

最後に、今後取り組んでいきたいことをお聞かせください。

(平賀)琉球王国がMICE先進国として「おもてなしの国」であった事を踏まえ、現代流のアレンジ等で形にできるものが無いかと考えています。 例えば琉球王国時代、世界文化遺産の「識名園」で国王が療養される際、国王のお側で琉球古典音楽の演奏を行っていたようです。(当時としては医療行為)科学的なエビデンスはありませんが、エステの施術中にお客様の横で演奏する等の展開が出来れば、ウェルネス視点での沖縄だけのコンテンツが出来る可能性があります。 また、エステを利用するお客様は比較的女性が多い事を考えますと、女性演者の活躍にも繋がります。また、より大きな産業間連携が必要になりますが、琉球王国時代に行われていた「江戸のぼり」を現代流にアレンジする等も出来ればと思っています。歌三線×1名と舞踊×1名なので、身軽に動けることも我々の強みです。

(平賀)最近は海外を含めた富裕層対応のご依頼が増えており、沖縄県として進めておられる「量から質への転換」に繋がればと思っています。 私たち一般社団法人琉球伝統芸能デザイン研究室は沖縄の観光産業に貢献したいという想いに加え、今後日本の基幹産業となる観光産業のモデルづくりに貢献したいという志を持っています。そうした想いや志のもと、これからも色々な産業間連携を進めさせていただき、沖縄だけの「特別で上質なホンモノ体験」をご提供し続けたいと思います。