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てぃだぬファーム × 観光 ~ パイナップル収穫体験から生まれる地域活性化の道~

2025/03/10


てぃだぬファーム
荒木 俊之 様

南国の太陽を一身に受けたパイナップル。その魅力を最大限に引き出し、訪れる人々に感動体験を提供する「てぃだぬファーム」。石垣島で育まれたパイナップルの魅力と、石垣島ビーチホテルサンシャインが地域を盛り上げたいという想いが重なり、朝食でのパイナップル提供や収穫体験の実施が実現。
てぃだぬファームと石垣島ビーチホテルサンシャインの連携はどのように始まり、地域や観光客にどのような影響を与えているのか。
今回は、千葉県から移住し、石垣島で農業者として技術の研鑽を積んだてぃだぬファーム代表・荒木俊之様にお話を伺いました。

産業間連携のPOINT

連携している産業 農業 X ホテル X 観光
きっかけ 沖縄には年間に140万人の観光客が訪れているが、足を運んでくださった方々の何パーセントの人に旬のパイナップルを届けることができているのかと、生産者仲間を考えた。東京での流通されることも大切だけれども、もっと石垣島で観光客に届けることが必要なのではないかという結論に至り、体験を含めた魅力訴求の方法を模索した
大変だったこと ホテルとコラボレーションして積極的にイベント開催をしていきたいが、農作業との兼ね合いもあり、イベントにかける労力をなかなか確保できない。またノウハウを持っている人材が不足している。
メリット 農園、ひいては石垣島のパインのファン拡大につながった。また、農業と都市生活者の距離を縮めることができた

てぃだぬファームについて教えてください。

(荒木)沖縄県石垣市で、パイナップルとかぼちゃを栽培している農園です。およそ2ヘクタールの農地で4種類の品種のパイナップルを栽培し、2024年の生産量は約15トンでした。今年からは1品種増やし、5種類のパイナップルを生産しています。
収穫したパイナップルは生産者組合を通して、生協や個人宅への定期配送便で全国各地のお客様のもとにお届けしています。
また、今年からはECサイトを活用し、本格的に個人販売も開始しています。

千葉県出身の荒木さんがパイナップル生産者になった経緯を教えてください。

(荒木)実は、初めて石垣島に移住をしたのは2007年なのです。その時にはまったく農業には携わっておらず、水牛車観光のガイドをしていました。2011年に一度石垣島を離れて関西に拠点を移したのですが、その時に農業に関心を持ち、3年間ほど農業について勉強しました。いざ新規就農するぞとなった時に、私の中で忘れられない存在として心にあった石垣に戻ろうと決意。生産者組合を主催している師匠と出会い門を叩いたことが、パイナップル・かぼちゃを生産するに至ったきっかけでした。

石垣島ビーチホテルサンシャインとは、どのような取り組みをしているのでしょうか。

(荒木)生産したパインを朝食でご提供いただいています。また、農園では毎年5月~7月にパイナップルの収穫体験を行っているのですが、そのPOPをホテルの朝食会場に設置いただいています。朝食で実際に食べて「おいしい!」と石垣島のパイナップルに興味を持ってくださった方たちに、もっとその魅力を感じていただければと思っています。
収穫体験は日が傾いて作業がしやすくなる16時頃からスタート。石垣島にパイナップルが伝わった歴史・背景や、生産者が収穫を進めるポイントなどをお話し、実際に収穫を体験していただきます。収穫したパイナップルは1つお持ち帰りいただけます。

どのような背景で、石垣島ビーチホテルサンシャインとのコラボレーションに至ったのでしょうか。

(荒木)石垣島には年間に140万人の観光客が訪れていますが、そのうちの何パーセントの方に旬のパイナップルを届けることができているのかと、生産者仲間と考えました。東京で流通されることも大切ですが、もっと石垣島に来てくださった観光客にその魅力を届けることが必要なのではないかという結論に至り、パイナップルの体験を含めた魅力訴求の方法を模索しました。石垣島ビーチホテルサンシャインの総支配人の赤城さんは、島でつくられたもの取り入れて石垣島の魅力を食体験として提供することに積極的な方です。そこで私から提案をし、昨年よりホテルの朝食にパイナップルをご提供させていただくようになりました。

ホテルとの連携をする上で、大変だったことはありましたか。

(荒木)「イベントを共同して企画しよう」という話をいただくこともあるのですが、生産者としての作業と並行して準備や運営をしなければならないため、なかなかそこにかける時間や労力をねん出することが難しいのが悩みです。また、イベントを実行するためのノウハウも私たちにはありません。そういったノウハウを持った人材と出会うこともなかなか難しい。現状、収穫体験の窓口は、生産者ではない人に協力をいただいていますが、こういった「生産者以外の人たちとのコラボレーション」がもっとしやすい仕組みが、今後できるともっとできることの可能性が広がるのではないかと感じています。

パイナップルの収穫体験によるメリットについて教えてください。

(荒木)収穫体験という特別な体験をしてもらうことで石垣島のパイナップルのファンになっていただけることです。ただパイナップルを味わうのではなく、私たちの畑を肌で感じていただくことによって、パイナップルのシーズンが来るたびに思い出していただけるのではないかと思っています。こうしたファンになっていただけるお客様を増やすことが、激変する世の中で私たち生産者が生き延びるための一つの方法にもなると考えています。
また、農業と都市部の生活者との乖離が大きくなっていることは、第一次産業の大きな課題だと感じていました。収穫体験は、消費者と生産者が言葉を交わしながら、農業の現場を知っていただくことができる場です。この体験が、両者の溝を埋める一助となっていることは、大きな意味があることだと思っています。
「南の島」というと、海に魅力を感じていただくことが圧倒的に多いですが、石垣島の魅力はそれだければありません。海以外の魅力でもっとつながってほしい。農作物を収穫して、それを現場で食べ、自分で収穫したものを持ち帰るという体験はとてもシンプルなものです。だけれども伝わるものは、必ずあります。もっと伝えたい――。よりよく伝わるためにはどうしたらいいのか――。それらを考えることは、私たちのやりがいにもつながっています。

取り組みを継続できている秘訣を教えてください。

(荒木)ひとりではないことです。同じような境遇、悩みを抱えた生産者仲間とともに取り組んでいることが、実は一番の肝。私の場合は、その仲間ができてから、自分の感覚が明らかに変わり、アイデアを具体化するための力が格段に増しました。石垣島ビーチホテルサンシャイン総支配人の赤城さんとも、石垣島が好きで石垣島のいいところをお客様にもっと知ってほしい、また島を訪れてほしいという気持ちでつながっています。地域の仲間と、地域を盛り上げたいと思う気持ちは、あらためて大事だと実感しました。

今後の展望についてお聞かせください。

(荒木)今、世の中的にも従来の観光とは異なった「体験型コンテンツ」の需要が高まっています。ホテルはお客様とコンテンツを結ぶHUB的存在としてとても重要な役割を担っており、私たち生産者はそうした地域のホテルと一緒に石垣島に貢献できる存在でありたいと思い活動しています。